「決まるまで辞めるな」のセオリーに反し、退職してから転職活動を始めたエンジニアの物語
最近、中途採用の求人募集件数(新規)が、対前年比で回復基調にあるという報道をたびたび耳にする。しかし、携帯・Webコンテンツビジネスなどごく一部を除くと、IT業界はまだまだ求人市場の回復には程遠いという感覚を持たざるを得ない。もう5年ほど、IT業界の転職支援にかかわってきたが、好景気な時代からみれば、天国から地獄といってもよいほどの大崩壊が起きたといっていい。
そんな厳しい求人状況がもう2年近く続いているというのに、世の中にはリーマン・ショック後の転職氷河期の真っ最中に、わざわざ自ら職を辞して転職先を探そうとした人たちがいる。今回は、そうした方々の転職活動にまつわる話を紹介したい。
20代後半、元コンサルティング会社のITエンジニアSさんの場合

そもそも、通常転職活動をする際、「次の職場が見つかる前に先に辞めてしまわないこと」がセオリーとされているのは、みなさんご存じのはずである。
どんなに好景気で転職先に困らないときでさえも、納得のいく転職先に出会えない場合もある。また、どんなに頑張っても、なかなか内定に至らない場合もあるだろう。そういった場合、離職していると、物心ともに疲弊してくる。結果的に、その後の転職活動で不本意な妥協をせざるを得なくなるからだ。
にもかかわらず、20代後半のITエンジニアのSさんは、新卒で就職した大手SIer系列のソフトハウスから転じて入った独立系コンサルティング会社を昨年夏に退職し、長い長い転職活動を続けていた。
それにしてもなぜ、Sさんはこの時期に先に退職という道を選んだのか。あえてセオリー違反を犯すぐらいだから、もちろん理由がある。コンサルティング業界をご存じの方ならおわかりだろうが、業務が多く毎日深夜まで残業しなければならないうえ、クライアントが東京以外にあると毎週月曜~金曜の泊まり出張生活。こんな勤務を続ける限りとても転職活動どころではないためだ。
たとえそうであっても、Sさんは退職を早まったのではないかと思う。私がSさんと接点を持ったのは、彼の退職から半年以上経ち、転職活動の壁にはね返されて苦境に至った後のことだ。
Sさんが会社を辞める前に、心あるキャリアコンサルタントが近くにいれば状況は違ったはずだ。この時期の「退職先行」がいかに無謀なことか。もうしばらくいまの職場で辛抱し、様子をうかがいながら行動すべきである。そう説いてあげられたのではないかという思いを禁じ得ないのだ。
もっとも、たとえ近くに助言者がいなかったとしても、Sさん自身も世の中が不況のどん底であることはわかっていたはずだ。それなのに、どうして冷静な状況判断ができなかったのだろう。(次ページへ続く)


