改革のモチベーションは「どう死にたいか」考えることでわいてくる
介護事業家・辻川さんは、学生時代に自閉症の少年と運命的な出会いをし、ボランティアを始めてから今日まで、介護の道1本をひたすら走ってきた。
「仕事でヘコむことはありましたが、やめたいと思うことはなかったですね。やはり、お年寄りから学ぶことが多かったですから。それに、ずっとこの仕事しかしてきていないですし」
何気ないことのように言うが、その道は決して平坦なものではなかった。顧客から「話の聞き方が下手だ」というクレームがあれば、産業カウンセラーの講座に通って学び、資格まで取得した。給与に不満を覚えたら、会社を変えるのではなく、自ら起業することを選んだ。ムダなコストを徹底的にカットし、ユニークなサービスや施設づくりに活かした。これまでの介護業界から見れば、「常識破り」な策を次々と打った。
こうして、辻川さんが代表を務める株式会社はっぴーライフは、創業から10年を待たずして、職員の給料が業界平均よりも約15%高く、求人広告を出さずとも月間30人もの応募がある「優良企業」となったのだ。さらに、成功のノウハウを自社内に留めておくのではなく、各地のセミナーやコンサルティングで、介護事業に想いを持ち、地元密着で運営している事業所に惜しみなく公開している。

「死ぬときには、お金を持っていけないですからね。実は、5年くらい前には、上場を考えていた時期もあったんです。でも、ベンチャーキャピタルの方たちとお会いして、『何年後には売上何十億円にして……』なんて計画を立てていたら、何かが違うような気がしてきて。
介護の仕事は、地域密着型の中小企業が適していると思うんです。ご自身の家族を預けるのに、その事業所の責任者の顔も知らないなんて、ちょっと不安じゃないですか? だから、うちだけじゃなく、各地に地域密着型で、いい経営をしている介護事業所があるようになればいいなと思い、ノウハウを公開しています。
近い将来、日本の労働人口が減り、介護業界に外国人の方が入ってくることになります。彼らをマネジメントできる人材を今のうちに育てておかなくては、とも思っているんです」
介護については、日本人の誰もが少なからず不安を抱えているのが現状だ。辻川さんの精力的な活動に感謝する反面、かなりの苦労を強いているのではと心配にもなる。その情熱はどこからわいてくるのだろうか。
「たくさんの方の死を看取ると、適当な仕事はできなくなります。やろうと思ったことは、実行しようと。私は介護の仕事を通して、高齢者の方々から、本当にたくさんのことを教えていただきました」(次ページへ続く)



