ワーク・ライフ・バランスで注目を集める「短時間正社員」
「ワーク・ライフ・バランス」、すなわち仕事と暮らしのバランスがとれた生き方を求める声が高まる中で、いま大きな注目を集めているキーワードの1つが「短時間正社員」だ。
短時間正社員とは一言で言うと、今までのいわゆる「正社員」に比べて勤務時間が短く、しかも福利厚生などではほぼ同等の待遇を得られる、新しい社員のあり方だ。
一般的なフルタイム正社員では、「無期雇用契約・1日8時間勤務・週5日勤務」を基本とすることが多いが、短時間正社員はこうした時間枠にしばられることなく、育児・介護や地域活動など、個々のライフステージやライフスタイルに応じた勤務を選択できるようになっている。また働き手の自由度を高める一方で、企業の側も多様な働き方のスタイルを提供することで、より幅の広い有用な人材の確保と活用を図れるようになるといったメリットがある。
2007年2月には政府と経済界、労働界、地方公共団体の合意により、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定され、官民一体となった取り組みが進められてきている。今回のシンポジウムは、こうした気運の高まりを背景に、「短時間正社員」にスポットを当てた厚生労働省委託事業として、求人や人材育成などで知られる株式会社アイデムが企画・運営した催しだ。
当日はこの分野の研究に積極的に取り組んできた研究者や、実際に短時間正社員制度を導入している企業の事例紹介、パネルディスカッションが行われた。会場には短時間正社員制度に関心を持つ人々が多数詰めかけ、報告や討議に熱心に耳を傾けていた。ここでは各セッションの概要をレポートでお伝えする。
多様な働き方を認め、正社員と同等の待遇を与える時代に
シンポジウムの最初で基調講演に立った学習院大学経済学部教授の脇坂明氏は冒頭、短時間正社員が根付けば日本社会の働き方は大きく変わると切り出した。

「ワーク・ライフ・バランスの改善が求められつつある中で、短時間正社員も大きな役割を担っていくのは疑いがない。現在の日本でも、多様な働き方を望む人は増えてきている。その理由としては、1人の人間のキャリア構築の過程で、より多様性が求められるようになってきていることが挙げられよう。
一方、企業の側からはダイバーシティマネジメント=多様な人材を活かす企業戦略の上で有効だ。事実、多様なキャリアを持つ従業員がいる企業の方が、生産性が高いという調査データもある。さらに社会というのは、多様な人間がいた方がさまざまなショックに対して強いということがある。さまざまな働き方を選択できる結果、社会参加や個人生活の充実が実現し、社会全体が豊かになっていく、という可能性が短時間正社員には感じられる」
だが現在の働き方は、超長時間労働の正社員とパートやアルバイトといった短時間労働者に二極化してきていると脇坂氏は指摘する。このため正社員を選ぶ場合は、残業や休日出勤、転勤などを拒むことができず、個人の生活を犠牲にせざるを得ない。反面パートや派遣社員は、自分の意図するワークスタイルを選択する上で、低い賃金や不本意な待遇に甘んじなくてはならない。
「この両者の中間をつなぐ働き方を作ろうというのが、短時間正社員のコンセプトでもある。オカネも処遇もそこそこに確保しながら、より個人のワーク・ライフ・バランスを確保できる働き方を探ろうというわけだ。こうした取り組みが今後も進められていけば、将来的には多様で柔軟な働き方が実現できるようになるだろう。
短時間正社員の特長の1つに、各人のライフステージやライフスタイルに応じて、フルタイム正社員から短時間正社員に変わったり、その反対も可能になるという点がある。たとえば女性の場合は子育て期には短時間正社員、手がかからなくなってからはフルタイムへという具合だ。また高齢者では、長時間労働では身体がきつくて引退せざるを得なかった人が短時間正社員として残ることでベテランのスキルを提供できる。
短時間正社員は、個人にとっては自分の生活を犠牲にすることなく、その時々に合った働き方と身分を保障する制度だといえる。一方、企業の視点から見ても、少子化の中で優秀な人材を確保できるといった点で有益だ」(次ページへ続く)


