法規制の緩和を背景に、働く人の将来が約束されなくなってきた

笹山氏は著書の中で、これまで自分があつかったさまざまな労働問題の事例を紹介している。その内容は、名ばかり管理職の残業代請求や、給与を一方的に下げられた人、いじめやパワハラ、そして理不尽な解雇など実にさまざまだ。これらは決してめずらしい話ではなく、日常的にあちこちの労働者の身の上に起こっていることだという。働く人々は、いまどんな状況に置かれつつあるのだろうか?
「法律という視点から見ると、こうした事例が起こる背景には労働法の規制が緩和され続けてきたという事実があります。この結果、正社員によって占められていた仕事が、どんどん非正規雇用者に流れている。これを働く側から見ると、法律できちんと身分を保障される職場が減っているということになります」
雇う企業にしてみれば、同じ仕事ならば非正規雇用の方が経費もかからず、必要な時に雇って、いらなくなったら解雇すればよい。この“使い捨て”の手軽さだけがもてはやされ、働く人の生活や権利を守る意識はますます薄くなってきているのだと笹山氏は語る。
「1980年代までの日本の企業には、労働者を育てることが利益の源泉になるという考え方が根付いていました。だから正社員の身分と終身雇用を約束して、長い時間と費用をかけて育てたし、働く側も長時間の労働にも耐えて頑張れたのです。しかしそうした将来的な雇用の保障がなくなったことで、働く人々の間には『ずっとこの先働けるのか?』『スキルやキャリアが築けない』『人間関係を作っていけない』といった悩みが拡がっています」
目に見えにくい小さないじめが日本のあちこちの職場で起こっている
では今、実際に働く現場でどんなことが起こっているのだろうか。笹山氏の著書には、広告制作会社でいじめにあい、上司に殴られてあごに穴が開く大ケガをさせられた26歳の青年が登場する。彼は長時間労働と安い賃金という劣悪な勤労条件に加え、住む家を会社に決められたり、上司の賭けマージャンにむりやり参加させられるといった、公私にわたるパワハラを受けていた。現代の日本にそんなことが起こっているというのは、にわかには信じがたいが事実だと笹山氏は言う。
「むしろ問題なのは、労働現場のあちこちで、この本に書かれている以上に違法な行為が行われていることです。それもごく小さな、理由にならない理由で辞めさせられる例が多いですね。いちおう『居眠りが多いから』などと言ってはくるものの、こちらが『どんな時に、どれくらいの回数で、職場ではどう対応したのか』と具体的な説明を求めても答えられない。まるで大昔の身分社会のように、『オレ様がイヤだからクビにしていい』といった意識しか持っていない使用者が非常に多いのです」
クビまでいかなくとも、無視や仕事を取り上げてしまうといった、目立たないいじめは跡を絶たないという。
「集団無視というのもあります。上司や同僚が言葉をかけてくれない、必要な情報が回ってこない、手紙などを隠される、もちろん改善を申し入れても無視されるといった具合で、こうなるともう個人の力では簡単に解決できません」
いじめられるのは本人にも問題があるからだなどと、冷たく批判する人も少なくない。はたして、本当にいじめられる人のタイプなどはあるのだろうか。
「中にはやはり人間関係を作るのが苦手だとか、仕事の要領がよくないといった、いじめの標的にされやすい人がいるのも事実です。しかし、そうした個人の資質を原因だとするのは、まったく問題のすり替えです。むしろ、そうした弱い立場に置かれやすい人であっても、最低限の働く権利や人権を守られるべきであって、そのために法律を使って立ち向かっていかなくてはならないのです」(次ページへ続く)


