望んでも正社員になれない人が多いのは、経済構造の問題

厚生労働省が5月に発表した「非正規労働者の雇い止め等の状況」によると、昨年10月から今年6月までに職を失った、もしくは失う見通しの非正規雇用労働者は21万6,000人以上。
フリーターや派遣社員として働く非正規雇用労働者の中には、職を失うと同時に住む家を失ってしまう人も少なくない。たとえば、工場の寮住み込みで働いていた派遣社員が突然「派遣切り」に遭い、ホームレス生活を余儀なくされるようなケースだ。
雨宮氏は、実際にそのような状況に陥ってしまった多くの人たちに会い、彼らが抱えるさまざまな問題を見続けてきた。
「仮に同じ30代だとしても、正社員なら結婚して子どもを育て、家のローンも組めるかもしれません。しかし、派遣などの非正規雇用で働く人たちは、30代になっても20代の頃と賃金がほとんど変わらず、その先も収入が上がる見込みがないどころか、3ヵ月後に仕事がある保証もない。いつ使い捨てされるかわからず、常に失業を前提としているような状態です」
たとえ同じような仕事をしていたとしても、非正規雇用というだけで大きな格差が生まれてしまう。そして、その格差を「自己責任」とする風潮もある。正社員になれず、雇用が不安定で収入の少ないフリーターや派遣社員という立場にあるのは「努力が足りない」、つまり「本人が悪い」という考え方だ。しかし、決して自己責任で片付けられるような問題ではないと雨宮氏は強調する。
「たとえば、バブル期と就職氷河期では求人倍率や就職内定率がまったく違うわけで、まったく同じように努力しても正社員になれなかった人はたくさんいます。そもそも、現在の日本では働く人の3人に1人以上が非正規雇用。企業側がそれだけ多くの非正規雇用労働者を望んでいるということなんです。本人の努力というレベルではなく、経済構造の問題として捉えるべきです」
非正規雇用労働者が「生きづらい」日本
さらに雨宮氏は、非正規雇用労働者にかかわる制度設計の問題点を指摘する。その1つが、最低賃金の低さだ。
「日本の最低賃金は、先進国の中で最低レベル。1日8時間・週5日フルで働いても、生活保護水準を下回る、つまり生存賃金に達しないということです。これは、先進国の多くが『生活するのに最低限必要』という基準で最低賃金を設定しているのに対して、日本の場合は『企業の支払能力』を優先して決めているからです」
平成20年度最低賃金は引き上げられたが、それでも全国加重平均で703円。月収にして12万円強。これで独立して生計を立てるのは難しいだろう。
「EU(欧州連合)諸国でも非正規雇用労働者は増加していますが、正社員との均等待遇の動きが進んでいます。また、フランスでは『稼ぎたいから非正規で働く』という人も多いそうです。非正規という不安定な立場で短期契約だから、その分、時給が上乗せされるんです。だから、フルで働けば正社員より稼ぐことができる。雇用の不安定さと引き換えにそのようなメリットがあるのですが、日本の場合は正社員と同じ仕事をしても、時間当たりの賃金が安いケースがほとんどでしょう」
失業対策などの社会保障面も、日本は非常に弱いそうだ。
「非正規雇用労働者が失業した際に活用できるセーフティネットがしっかりと用意されているので、日本の『失業即ホームレス』なんていう事態は、ヨーロッパでは考えられないことだといわれますね」(次ページへ続く)


