数百円で究極の贅沢を パンに情熱を傾ける店「COUPID」

東京・田園調布、自由が丘から程近くにあるパン屋『ARTISAN BOULANGER COUPIDO(クピド!)』。代表の澤口洋明さんは、「パンは、数百円で味わえる究極の贅沢」だと言う。
パン屋としてはめずらしい対面販売をとり、カンパーニュ等のハード系パンはグラム単位で量り売りされている。お客様はスタッフの丁寧な説明を聞き、会話を楽しみながらパンを買う。13種類の小麦粉、さまざまな酵母、塩をパンごとに使い分け、「当日作ったものしか売らない」という徹底ぶりにはファンが多く、夕方までにパンが売切れてしまうことも多いそうだ。
澤口さんは、食べ物への情熱がある家族で育った。「朝から、『晩御飯のおかずを何にするか』についてケンカしているような家族でした。そんな環境で育ったので、食べ物に対する好奇心がとても強い。何を食べても“目利き”をしてしまうようです」
学生時代にホテルのレストランでアルバイトを始めてから、通算15年、フランス料理店での接客キャリアを持つ。「ホテルのレストランに勤めるメリットは、まかない食事が出る等、生活しやすい環境が整っていたこと。それからずっと、飲食店で働くことになるとは思いませんでした」。その後、大使館、ホテル、格式を重んじるフランス料理店等でサービスに従事し、コミュニケーション能力を磨いた。
三ツ星レストランを食べ歩き 食への興味だけは消えなかった

ワインや料理の勉強をする等、ずっと食の世界を探求していた。食べ物を扱う店をやろうと思い始めたのは、1998年、30歳になった頃。「不思議と興味が失せず、好きでたまらなかった“食べ物”について、真剣に取り組んでみようと思ったのです」
日常業務の忙殺の中、自分の店を立ち上げる気持ちが薄れた時期も多かった。一方、食べることに対する興味は尽きず、1年に3~4回はヨーロッパに行き、ミシュランの星付レストランばかりを食べ歩いた。たとえば、10日間のパリ旅行で、三ツ星レストランの予約を4件入れるといった具合に。
食べる側から、食を提供する小売業に関心が向いたのは、勤めていたレストランのデパ地下出店チームのリーダーになった時。デパートのバイヤーや小売店の人達と接する機会が増え、「小売業も面白い」と思うようになった。
パンの販売を検討していた時期に、現在の店を一緒に運営することになる、パン職人・東川司さんに出会った。「彼の職人としての力量は、会話の中から感じ取りました。またその手を見て、直向きな姿勢のある職人だとわかりました」(次ページへ続く)




